血糖コントロール目標 HbA1c の取扱いについて

 

 2016.8.10付けでブログで次の記事を書きましたので、ホームページでもそれを要約して再掲することにします。

 

 週刊現代7月2日号<糖尿病の薬はもう飲まなくていい>の

 記事に物申す

 

 週刊現代のその記事は次のとおりです。それをまず抜粋します。

 週刊現代7月2日号

 <糖尿病の薬はもう飲まなくていい>

 新しい基準値の衝撃

…5月20日に出された「お達し」が、医学界を激震させている。日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同で発表した「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」という文書である。糖尿病かどうかを判断する基準として、広く用いられているのが「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という物質の血中濃度だ。これまでは、このHbA1cの値が6.5%を超えると「高血糖」とされ、薬を使って血糖値を下げなければならない、というのが常識だった。しかし今回の発表で、すでに糖尿病薬を使っている人については、その管理規準が大きく緩められることになった。…
…’01年からアメリカやカナダで「アコード試験」と呼ばれる大規模な実験が行われました。常にインスリンを投与して血糖値を厳しく管理し、正常の範囲に保っている糖尿病患者グループと、血糖値をあまり気にせず、主に食事療法を受けた患者グループの経過を、長年にわたり比較したのです。3年後、管理グループの死亡率は食事療法グループに比べて22%も高くなっていた。…

 

 まず前段についての批判をします。
 たしかに日本糖尿病学会は「
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を下表のとおり改訂しました。(糖尿病治療ガイド2016-2017)

 その前の規準はどうなっていたかというと、それは「熊本宣言2013」でして、下表のとおりです。

 

 もう一つ前の規準となると、2010年7月に現行のHbA1c(JDS値=日本式検査値)を国際標準値(NGSP値)に切り替えたときの下表のもののようです。

 このとき、JDS値でコントロールの「良」評価の値がHbA1c6.5%未満(これはNGSP値で6.9%未満に相当とします)となっていました。
 もう一つの規準が、糖尿病か否かの診断規準「糖尿病型」の判定の一つに用いられるHbA1c(NGSP値)6.5%以上(注:これ一つだけでは糖尿病とは診断されなない)です。この2つの数字が同じですから、小生も初めのうちは混乱しており、週刊現代と同様に“HbA1cの値が6.5%を超えると「高血糖」とされ、薬を使って血糖値を下げなければならない。”と捉えていました。しかし、これは今説明しましたように明らかな誤りです。
 なお、週刊現代にある「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という物質の血中濃度」は、正しくは「ヘモグロビンのうち、ヘモグロビンにブドウ糖が結びついた糖化ヘモグロビンの占める割合」です。

 

 上に掲げました表を注記を含めて正しく読み解こうと思っても極めて難解であるのですが、今回の発表は、高齢者にとって「強い薬は重症低血糖を起こしやすいから、それを防ぐために目標設定値に幅を持たせ、かつ、下限値を設けた」というものです。
 これによって、治療サイドでどんな変化が現れるでしょうか。
 これは小生の推測ですが、今日使われている大半の薬は「重症低血糖が危惧される薬剤」ですから、最初に掲げた表の最下段「あり」の欄に多くの人が該当し、従前(2つ目の表=熊本宣言2013)の「合併症予防のためのコントロール目標(年齢に関係なく):7.0未満」に対して、新基準値では、カテゴリーⅠの65歳以上75歳未満で認知症もなく自立生活している患者の「コントロール目標:7.5%未満(下限6.5%)」という幅を持った設定は、医師の判断でいかようにも薬を処方できることを意味し、たいていの医師は従前どおりの「7.0未満」を基準にしておいていいじゃないか、となってしまいそうです。
 まあ、せいぜい薬が効きすぎて重症低血糖がどれだけか心配されるから、患者にその点をよく言っておくか、で済んでしまうでしょう。
 また、従前の規準値「治療強化が困難な際の目標」は、新基準値のカテゴリーⅢ(認知症、自立生活低下、並存疾患・機能障害を有する患者)に相当し、ともに、今、説明しました値がそれぞれ1.0ポイント大きくなるだけのことで同じ対応となります。
 ただし、75歳以上のまともな患者(認知症の気もなく、自立生活ができる人)の場合は、0.5ポイントアップした値の設定になりましたから、「いままでの7.0未満は行き過ぎで、7.0%以上にしておく」となり、投薬にブレーキを掛けねばならないでしょうが、このカテゴリーに入る人はそれほど多くはないのではないでしょうか。これと同じ扱いとなる新たに設定されたカテゴリーⅡ(若干の認知、若干の自立性欠如)に区分される対象者もそれほど多くはないのではないでしょうか。
 なお、65歳未満の患者の基準値は従前どおりで、下限設定は設けられておりません。

 

 ということで、週刊現代が言うところの「糖尿病の薬はもう飲まなくていい」とか「新しい基準値の衝撃」とか「医学界を激震させている」というのは、何とも理解に苦しむところです。
 新基準は、表の下に書き添えてある「加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。」ことが唯一のブレーキになっているだけですし、高齢者にあっても「注2)」で「薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満とすることも許容される」とし、新基準によらず従前の規準の「血糖正常化を目指す際の目標」をそのまま適用することも許されるのです。

 

 次に後段についての批判をします。
 アメリカとカナダで行われたアコード(ACCORD)試験で、どんな結果が出たかといいますと、「試験開始後3年半の時点の中間解析で、死亡数が強化治療群では257例、標準治療群で203例になり、強化治療群の死亡率は標準治療群に対して明らかに高くなってしまい、これは統計的に有意な値であったがために、試験は中途で終了」というのが事実のようです。
 このアコード試験をもう少し詳しく説明しましょう。
 対象者は2型糖尿病の患者10251人で、条件は「概ね10年前後糖尿病を患っている、高血圧症・高脂血症・喫煙・肥満そして心臓病のいずれか2つ以上に該当する」というもので、ほぼ同数の2群に分け、年齢、既往歴、体重、BMIなどを極力平均的に配置し、強化治療群と標準治療群で治療効果にどの程度の差が出るか、そのデータを取る。
 強化治療群(5128人)はHbA1cを6.0%未満を目標にコントロール、標準治療群(5123人)はHbA1cを7.0%~7.9%を目標にコントロールしつつ、両群ともに治療を5年間行うことでスタート。平均年齢はともに62.2歳。
 当初の予測では、より強化した血糖コントロールを行なったほうが糖尿病の合併症としての心筋梗塞や脳卒中の発症は減り、死亡リスクも低下するであろうと考えられました。
 ところが、試験開始後3年半の時点の中間解析で、先の死亡率の有意な差でもって危険性が危惧され、試験を中止せざるを得なくなったというものです。
 なお、その時点での強化治療群のHbA1c平均値は8.3%から 6.4%に、標準治療群のHbA1c平均値は8.3%から 7.5%に変化し、概ねコントロール目標に近いものとなっていました。
 参考までに、その解析データの主だったものは次のとおりです。

 

                         強化治療群       標準治療群
 総死亡数・死亡率             257(5.0%)     203(4.0%)
  うち心血管死亡数・死亡率      135(2.6%)      94(1.8%)
 非致死的心筋梗塞発症数・発症率  186(3.6%)     236(4.6%)
 要治療低血糖発作発症数・発症率  538(10.5%)    179(3.5%)

 

 これらの死亡率、発症率の差は、全て統計的に有意なもので、特に注目すべきは、要治療低血糖発作発症率が、標準治療群に対して強化治療群は3倍にもなっていることです。逆に、非致死的心筋梗塞発症率は強化治療群のほうが若干少なかったという点にも注目されます。
 ところで、週刊現代は「強化治療群には常にインスリンを投与」と言っていますが、実際には「インスリンを投与する場合もあるが、強い薬(SU剤)を主として使用した」ということですし、週刊現代は「標準治療群は主に食事療法」と言っていますが、実際には「何らかの薬を使用した」ということのようです。

 

 アコード試験と極めて類似した調査研究、それはアドバンス(ADVANCE)研究というものですが、同時並行的に同じ頃に行われました。
 アドバンス
研究は、グリクラジド(Gliclazide)というSU剤による強化治療の有効性を確認するために、ヨーロッパとアジアを中心に20か国で11140人の2型糖尿病者(平均年齢66歳)が参加して行われた、国際的大規模研究です。
 
強化治療群にはHbA1cを6.5%以下にするという目標が設定され、標準治療群には各地域のガイドラインに沿った治療が行われました。
 5年の観察終了時のHbA1cは、強化治療群6.5%、標準治療群7.3%でした。この数値はアコード試験の結果とほとんど類似しています。
 さて、この試験による大血管障害と総死亡については、強化治療群と標準治療群の間で有意な差は認められませんでした。また、重症低血糖発作発症数については、アコード試験の半分にも至らなかったものの、強化治療群で2.7%、標準治療群で1.5%で、2倍弱の開きがありました。

 

 この2つの大規模な調査研究、ともに統計的に有意と言いながらも、死亡率や血管障害率については異なった結果が出ていますから、強化治療が良いか悪いかは何ともいえないでしょうね。ただし、低血糖発作発症率は両調査研究ともに強化治療と標準治療で明らかに差が生じており、むやみに血糖値を下げるのは危険だということははっきりしています。
 この種の調査研究は規模は小さいながら他にもあり、こうした調査研究を踏まえて、今回のガイドライン設定となったことでしょう。

 

 最後に、週刊現代も正しいことを多く言っていますから申し添えます。糖尿病に関する薬についての記述として次のものがありました。
 「SU剤(スルホニル尿素剤)は、薬価が安く、最もポピュラーな糖尿病薬。弱っている膵臓に鞭打ってインスリンを無理やり分泌させる。」
 「DDP-4阻害薬は、最も売れている。特徴は、食後血糖値が上がったときだけインスリンを出させる。肥満型の人が飲むと、一気にインスリンが出てしまう。腎機能障害を起こす恐れもある。年間売上1500億円。なお、糖尿病薬は全部で4000億円。」

 

 近年、医師が処方するのは、こうした強い薬が多いようです。これらは皆、週刊現代の記述=「弱っている膵臓に鞭打ってインスリンを無理やり分泌させる」のですから、そもそも膵臓が弱っている糖尿病患者の膵臓がますます疲弊し、最後にはインスリンが出なくなり、インスリン注射するしかなくなる危険性があります。
 これに比べ、ブドウ糖吸収阻害薬(消化酵素の働きを止める)は、こうした危険性はないものの、多少とも薬の量が多いと消化不良を招き、腹部膨満感・不快感などの副作用がよく現れますし、薬剤の副作用による肝機能障害を起こすこともありますから、安心できるものではなく、むやみに使うものではありません。
 こうしたことから、糖尿病改善におすすめしたいのは、食後過血糖を解消する自然食品
です。血糖値を抑える力が弱くても、副作用がないものを愛飲したいです。
 その2つとは「ヤーコン葉エキス」と「桑葉エキス」です。消化されて出来たブドウ糖をゆっくりゆっくり吸収させる(ただし桑葉は消化酵素の働きを少々止める機能も持つ)だけですから、決して低血糖になることはなく、食後過血糖をほどよく抑えてくれます。なお、「ヤーコン葉エキス」はインスリン様作用があって、その分膵臓からのインスリン分泌が少なくて済み、疲弊した膵臓を休ませてくれる、すぐれものです。
 そして、食養生の仕方次第で糖尿病は薬なしでかなり改善するものです。これについては、このホーページの「メタボ・糖尿病のコ-ナー」で詳しく紹介していますのでご覧ください。
 週刊現代が言うところの「糖尿病の薬はもう飲まなくていい」とは、こうした養生法をとることによって可能となるのです。やたらとあおるだけではなく、じゃあどうすりゃいいの?というアドバイスを週刊現代も同時に記事にしていただきたいものです。